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と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。
黒光りのする戸棚の蔭からびつくりしたやうな義母の円つこい眼がのぞくと、
で、この間に、いくらかそゝつかしいところのある、換言すれば、済んだことにはあまり気をとられない現実的な気質の房一は、たつた三十分前に盛子から聞いたときのあの驚きを忘れていた。一先づ用は片づいた。今日は別に往診もなかつた。で、かういふときの癖で、彼のあのはまりのいゝ廻転椅子に身体をうづめ、ぼんやりとした考へに落ちたのである。
練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
「一昨年の水で流れちやつたからそのまゝになつてるね――ずつと下にはあるが、さあ、そこへ廻ると半路はんみち以上ちがふかな」
「訴訟があるさうで、面倒なことですな」
徳次は指で真似をした。
「あの人は来まいて」
「あら、お帰んなさい。随分早かつたのね。もう済んだんですか」
この云ひ分はいつでも何かあるごとに、練吉の口に上つた。正文の前でも云つた。何年かの間繰り返された練吉の云ひ分だづた。
そこから元来た路を引き返した房一は、行きがけには通りすぎた千光寺の山門を潜つた。広い人気のない寺庭には九月の日が明く冴えて、横手の庫裡くりに近い物干竿では真白な足袋が二足ほど乾いてぶら下つていた。そのしんとした庭の中をまつすぐに庫裡の方へ横切つてゆくと、いきなり
「うん、あの程度だと別に影響はないんだらう」